春秋もバニラも僅か1年で撤退…LCCの成田~関西線はそんなにダメだったのか?
バニラエアが2018年6月15日限りで成田~関西線の運休を発表しました。2017年2月に1日2往復で就航して1年4ヶ月、7月からの石垣線就航に力を入れるためと思われます。一方同路線は春秋航空日本も2016年9月~2017年10月まで運航していた時期がありました。
1.東京~大阪は空も陸も重要幹線
日本の二大都市東京と大阪を結ぶ交通手段は世界屈指の大動脈であります。羽田~伊丹はJALとANAが大型機で毎時1本運航し年間500万人以上が利用する重要幹線。関空や神戸も含めるとスカイマークやスターフライヤーも参入しています。
一方で東海道新幹線は1300席の列車が最大毎時15本、年間4000万人が利用するJR随一のドル箱路線。さらに速達性には難があるものの発着地点の多さや運賃の安さで定評のある高速バスも昼夜問わず多数運行しています。
そこに2012年7月、ジェットスタージャパンが成田~関西線を開設、一方関西を拠点にするPeachも2013年10月同路線に就航し日本の二大都市を結ぶLCCネットワークが樹立されました。
2.ライバル多すぎ…一時は国内全LCC4社が競合
古くから旺盛な需要があった東京~大阪路線ですがそれゆえにライバルが数多くひしめく路線でもあります。羽田発着は前述の通り、成田~関西線に限ってもジェットスタージャパン、Peach、春秋航空日本、バニラエアの4社が競合。この他に成田~伊丹線をJALとANAが各2往復飛ばしており、こちらは国際線乗り継ぎを主目的としています。
しかし羽田発着の大手航空会社と比べると運行本数はごく僅か。ジェットスタージャパンが4往復、ピーチが3往復なのに対し、バニラエアと以前の春秋航空はどちらも2往復と使い勝手が悪かったのは確かです。全社まとめても成田出発は始発は9時過ぎ、昼過ぎ~夜までフライトがない時間帯があったりで無駄が多いです。
これが成田~新千歳線だとジェットスタージャパンもバニラエアも最大各9往復1~2時間間隔で出ているので時間や予算に応じて選択肢も広いのですが…。
3.高需要ゆえLCCなのに安くない?
LCCは低運賃こそ最大の魅力というのは各社・利用者とも共通の認識でしょう。ただ需要に応じて運賃が変動する仕組みであり、需要のない便は安く売って空席を埋めて、一方需要の多い便は高く売って収益を出すシステムです。
東京~大阪は既にある新幹線や羽田~伊丹線がドル箱路線であることから判るように、新規参入をしても旺盛な需要を取り込めます。だから視点を変えれば、安売りしなくても空席が埋まる路線でもあります。つまりLCCにとってこの路線に進出するということは「安売りしなくても元から需要が多い」「既存他路線のユーザーも取り込めて常連化できる」という2つのメリットがあるわけです。
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参考:LCC初心者が予約する前に絶対に準備しておきたい6つのこと
また日本国内線で航空券に旅客施設料を課す空港は羽田、成田、中部、関西、北九州の5空港あり、成田と関空(T2のみ)は出発便だけでなく到着便でも旅客施設料を徴収します。旅客施設料に関しては以前の記事を。
参考:航空券の諸税等って何?海外旅行の価格を難しくする物の正体とその理由
4.空港までが高くて遠い成田/関西
空港まで/空港からのアクセスも問題になります。福岡空港のように市街地に近く電車やバスで短時間でアクセスできる空港はまれで、特に東京~成田空港や京都~関西空港は50km以上の距離があります。
成田空港から都心までは鉄道でも運行本数が乏しく、値段も高いものが多いです。LCC航空券が3000円4000円で買えてしまうと、成田から都心までの電車やバスが3000円というのはなかなか割高に見えてしまいます。地味な京成特急が時間/費用のバランスが取れているという話も以前しました。
参考:成田空港からのアクセスに迷ったなら京成本線特急が万能という説。
関西空港の場合JR、南海、バスいずれも大阪市内各所まで1000~1500円程度に収まるので成田より幾分かまともです。大阪市内だと近いはずの伊丹空港と大差ありません。
航空各社もこの辺の事情は理解しているのかジェットスター、Peach、バニラエア(成田のみ)等のように成田行き便で京成電鉄の、関西行き便で南海電鉄のきっぷ(厳密には引換券)を機内で販売しているケースが多いです。
時間で考えても都心から成田空港第3ターミナルへは1時間30分程度、梅田・なんばから関西空港第2ターミナルまでも1時間程度。空港での諸手続きも含めるとトータルでは5~6時間掛かってしまいます。これなら新幹線のほうが圧倒的に速いし、8~9時間程度の高速バスのほうが乗ってしまえば後は楽だし価格的には相変わらず有利です。ゆえに時間面でも価格面でもなんだか中途半端だと言えます。
5.1年間の運航期間が残したもの
新規開設路線が1年程度の短期間で撤退に追い込まれたというのは確かに良いイメージは持てません。スカイマークが経営危機に陥ったのも短期間での路線開設/休止を繰り返してばかりで固定客が付かなかったことが大きいと考えられます。
ただバニラエアに関しては創業当初からリゾートLCCを謳っていて多くの路線が北海道と南の島に二分しています。関空発着も奄美と深夜の台北、そして季節運航の函館線が残ります。
この辺はバニラユーザーもわかっていて数ある選択肢の一つ程度にしか考えていないと思われます。JALやANAのように年会費を払ってクレジットカードを持って他の航空会社には目もくれず特典航空券目指してマイルを集めるような密接さは無く、SNSで時たま情報を受け取る程度のゆる~い関係です。お金をかけずに繋がれて、フォロー外しもやりたければ簡単にできるノーリスクの関係です。
参照:バニラエア ポイントがカード発行も他社提携もしない本当の理由
予約や運賃検索の段階でメール登録なりSNSフォローなりしてもらえればあとは延々広告を配信し続けられるので、「次は奄美へ台北へもどうぞどうぞ」とリピーター開拓も容易にできます。
また運航する路線がどこであれ、飛行機が飛べば座席指定や機内販売という二次ビジネスが発生します。ゆえに1時間程度の短距離便が多いほうがその機会が増えるわけです。
実際成田~石垣線開設では同時に那覇~石垣線も開設が決まっており、関西や九州からの旅行者が沖縄周遊の時に利用することも可能になります。同区間は以前にもPeachが運航していました。旅行者が地元に就航していない航空会社に乗る数少ないチャンスですから、ブランドイメージを発信する絶好の機会と言えそうです。それが長く続かなかったとしても…。