ローソンがセルフレジを全店導入へ。現金不可が新しい価値をつくる。
コンビニ大手のローソンが2019年10月までに、国内に約14000ある全店でセルフレジを導入すると発表しました。これまで約3割の店舗(駅数ベース)でセルフレジを導入していたNEWDAYSを大きく引き離し、レジのセルフ化、キャッシュレス化の流れが一気に進みそうです。
1.NEWDAYSのセルフ化を一気にを進めたSuica
JR東日本系列のコンビニNEWDAYSは2004年にSuicaでの支払いに対応、これはICカードを使った電子マネー決済としてもかなり早い時期でした。その後NEWDAYS自体が各駅への出店を進め、やがて郊外や地方都市の駅にも進出します。
2008年頃には店員1名の旧キヨスク型店舗でセルフ決済端末を導入。レシートを発行しない、1回で1品しか購入できないといった制限こそあるもののセルフレジの始まりと言えます。2015年頃から複数商品も購入可能でレシートも発行できるセルフレジ端末が急速に普及していきます。
NEWDAYSが急速にセルフレジを普及できた背景には
- 電車の発着に合わせ迅速な決済が求められる
- 通勤や通学等毎日同じ行動パターンの顧客が多い
- Suicaは並行的に乗車券としても導入されていた
という鉄道駅立地特有の好条件があったこともあります。一方でそれゆえ需要がないと判断され市中のコンビニが展開するサービスでも取り扱わないものも多くありました。
- タバコ(現在は一部店舗で販売)
- 公共料金等の収納代行(現在は一部店舗で販売)
- 電子レンジ(現在は一部店舗に設置。但し顧客が操作するセルフ式)
- おでんやから揚げ等のホットスナック
このように商品カテゴリが絞られていたために決済の簡略化が可能だったのも確かです。なおバーコードのない新聞やカウンターコーヒーも2018年のアップデートでセルフレジ決済可能になっています。
2.クレジットや電子マネー導入を古くから進めてたコンビニ
実は電子マネー等の非現金決済とコンビニとの相性が良く、むしろコンビニで使えなければ電子マネーは普及しなかったとも言えるほどです。
特にローソン、ファミリーマート、サークルK、サンクス、ミニストップが2000年代半ばにはEdyやiD決済に対応。やや遅れてセブンイレブンが独自のnanacoを導入しその後EdyやSuica等も併せて利用可能になっていきます。
日常生活に密着したコンビニであれば利用頻度や決済額の少なさからも、新しい決済システムの導入がしやすかったことは確かです。ただ、いずれも「使うこともできる」に留まり、現金を上回るメリットが店舗にも顧客にもわかりにくかったのも事実です。
一方でレジ混雑の解消や、長時間営業ゆえの従業員確保、売上金を狙った犯罪など、問題も無かったわけではなく、むしろここ数年で深刻化していると言っていいでしょう。とはいえ決済方法の種類が多い割に結局現金比率が高く、抜本的な解消は困難とも思えました。
2010年代になってローソンやファミリーマートがセルフレジの実験に踏み切りますが、釣銭確保や防犯上の理由から現金以外の決済手段に限定し、法令上年齢確認が必要な酒やたばこ、バーコードのないホットスナック等、扱えない商品カテゴリが多いとハードルは高いままです。
ただ、2010年代後半になると世界的に国外からの消費が活性化したことや脱税・マネーロンダリング対策の一環でキャッシュレス決済の必要性が注目され、特に小売店は配送、陳列、レジでの人手不足(人件費を上げようにもオンラインショップとの価格競争もあり難しい)もあり現金を排除してでもレジの自動化が必要なのではないかと方針を変えていきます。

ファミリーマートの一部店舗のセルフレジ。Tポイントやクレジット、電子マネーに対応するも、現金やバーコード決済には対応していない。
3.コンビニと鉄道に共通する「速達化」
コンビニと都市鉄道には共通点もあります。通勤通学といった日常生活の一部となっており、利用頻度も高いことから手続きの簡略化、迅速化が望ましいのです。限られた人員と時間でいかに多くの顧客を捌くかが必要なのです。
実際鉄道では多くの駅で改札業務を自動改札機化し、きっぷの窓口販売を自動券売機そして都度購入不要のSuica等へと進化させ、省力化を進めてきました。都市間鉄道でも公共交通とは言え高速バスや航空便等とも価格や所要時間などでライバルも増えつつあり、生産性向上も求められている訳です。
一方コンビニも少ない人員と売場面積であちこちに出店しており、スーパーやホームセンター、オンラインショップ、さらにはコンビニ同士でも競合するほど供給過多なのも事実です。24時間営業しても売れるピークは朝や昼の一部時間帯に限られます。そのピーク含めてより少ない人員で運営できるよう変化が求められているのも事実です。
4.現金不可の理由はスーパーのセルフレジとの違いにある
NEWDAYS、ローソン、ファミリーマートのセルフレジが現金を受け付けない一方で、スーパーマーケットのセルフレジでは現金支払いが可能なケースが多いです。この違いについても考察してみました。
スーパーマーケットの場合、売り場面積が広いことと夜間閉店を前提にしているため、
- レジ自体が有人・セルフ含め多い
- 従業員数が多くレジだけを行う係もいる(役割分担制)
- 入口付近にもカートの回収やラッピング等の担当者が居る
- 自動釣銭機を導入する店舗も多い
- 各レジの売上金・釣銭金は閉店的までに金庫にまとめる(レジはカラになる)
つまり従業員が多くレジも多いので釣銭が足りなくなれば隣のレジから貰えたり、ピークを過ぎれば一部レジのお金を全て収納して残りのレジだけで営業する、ということも可能です。またピーク時には空いているレジへの誘導係が居たり、サービスカウンターと呼ばれるギフトラッピングや領収書発行の係が兼任することもあります。
セルフレジに関してもイオンのように数台規模で設置され、前後に係員を置いて誘導やイレギュラー対応を行う大型店もあります。
一方でコンビニは売り場面積が狭く、24時間営業を前提にしているので真逆です。
- レジは2~3台程度しかないのが普通
- 全従業員がレジ、陳列、発注、清掃まで行う(マルチタスク制)
- 入口に清掃や警備の係は居ない
- 会計スピードの問題から自動釣銭機はあまり使われない
- 常に各レジに釣銭金が用意されている(勿論金庫はある)
スーパーと比べると圧倒的に少ない人数で運営しています。多くは5人以下です。スーパーと比べると釣銭として用意する金額も場所も両替する余裕も圧倒的に少ないです。スーパーで一般化しつつある自動釣銭機もないため、紙幣や硬貨の枚数を定期的に手を使って確認する作業もあります。
こう考えると省スペース、少人数で運営しているコンビニにとっていかに現金が煩わしいか判ってきます。
そのような中で全国各地に展開するローソンがいち早く全店セルフレジ設置を発表。もちろん現金決済もレジ係も残ることになりますが、顧客はよりシンプルかつスピーディーな道を選ぶことが可能になります。一方店側も作業軽減や金銭トラブルリスク回避が(ある程度は)期待されます。
都心の一部の店で、ではなく全国1万以上の店でそれが可能になるとなれば、キャッシュレス決済普及を一気に後押ししそうな気がします。