航空便の「経済減便」解禁へ。予約不振を理由に欠航できるのは合理的で業界にも地方にも恩恵。
国土交通省航空局は、定期航空便の「経済減便」を認めるようです。以前から(2017年の国交省資料PDF、および同年8月のアンケート調査PDF)で協議されていたようで、米国やオーストラリアなど海外では既に認めている国もあるようで、地方交通の確保、航空会社の収益性改善などが期待されます。
1.予約不振を理由に欠航できる
これまで航空便の欠航といえば悪天候や機材整備等が原因でしたが、新たに予約が少なく航空会社が収益を見込めない便も欠航できるようになります。
従来は季節ごとに運航スケジュールを届け出る必要があり、需要がない路線は夏季のみ運航とか土日のみ運航といった計画を事前に立てる必要がありました。
例えば現状本州から宮古島や石垣島は寒暖差の大きい冬季のみ運航していたり、LCCだと6月や10月は土日など特定曜日のみ運航といったスケジュールが組まれており、この場合当然ながら夏季や平日はそのフライトは利用できません。
経済減便解禁で航空会社は需要のない便を運航しないことで経費を削減できるようになります。一方利用者は予約した便に乗れなくなる可能性が出てきます。
2.運航7日前までに公表し対応へ
経済減便の対象となる便は運航7日前までに航空局に届出され、航空会社の公式ウェブサイトや予約者のeメール等によって告知され、変更や払戻しに対応するようです。
また欠航便は悪天候や機材整備等と同様に理由と共にデータが集計され、経済減便の多い航空会社少ない航空会社も分かるようになるでしょう。
3.欠航できる便や路線の条件は厳しい
この新ルールのガイドラインも発表されました。これを全て満たせる便で初めて経済減便が可能になります。
- 運航が7日以上先であること
- 前後3時間に同一路線に自社便があること
つまりは当日になって客不足だからと欠航になるようなことはなく、7日前とかなり早い段階で別便への変更や払戻しが認められます。こうなると利用者への影響も小さそうです。
もっと注目したいのは2番目の項目で、少なくとも3時間に1便は1社で運航していないと経済減便はできないことになります。ゆえに1日1~2便のローカル線には縁のない話で、少なくとも1社で1日5便程度以上ないと経済減便は難しいでしょう。
4.実質成田~新千歳線向け?
こういった運航スケジュールや運用ガイドラインを見ると真っ先に思いつくのが成田~新千歳線。ジェットスタージャパンとバニラエアが共に閑散期(4月の平日)1日5便、7月8月の週末には最大1日9便が運航されます。
これが平時でも1日7便程度あって1週間以内の便であれば運航は確定するので、出張や見舞い、介護等での利用もしやすくなると思われます。一方で1~2時間間隔での運航なので振替便もあり経済減便が可能な1往復が出てきそうです。
また各社とも便数の多い羽田~新千歳や羽田~福岡もルール上は可能です。ただJALとANAは現状既に需要の少ない便の機材小型化に手を付けており、スカイマークやスターフライヤーも小型機ながら旺盛な需要があるので減便の可能性はなさそうです。更にANAの羽田~米子やJALの羽田~青森のように独占運航かつ小型機による増便傾向にある路線も効果がありそうです。
5.リゾート路線に「就活」という新需要が
現代の航空業界は入念な需要リサーチを行っており、過去の実績や他社の動向も含め細かな情報収集、分析を行っているようです。しかしそれでも捉えきれない需要というのはあるようです。
成田~新千歳線はジェットスタージャパン、バニラエア共に何度も乗っていますが最近新しい客層が目立ってきました。これまでLCCと言えば若者が遊びに行く時に使うイメージが知られていましたが、実はビジネス利用者も目立ちます。特に夜は当日券もJALやANAより割安なのと、自宅が千葉県北部や札幌近郊なら利用価値は大きく帰宅客が目立ちます。
中でも大学生の就職活動は年々スケジュールが変化しつつあり、その数も少子化とは言え膨大です。ユーザー側も経費は抑えたいし時間も効率的に使いたい。そして説明会等はあらかじめ時間や場所が決まっているので事前予約割引を使うのは非常に合理的です。かといってANAの旅割のように21日前は早過ぎるのでLCCが選ばれるのかと思われます。
結論としては平日は需要がないと思われていた成田~新千歳線も蓋を開けてみればニーズはあったということ。となれば航空会社も運航を計画してチケットを販売し収益につなげたいはずです。勿論就職活動は一時的なものであり使える路線・便も限定的ではありますが、航空会社も収益化したいし利用者も便数があった方が便利です。
6.人手不足の救世主になる?
更に近年問題になっているのが航空会社や空港に限らず物流業界の人手不足。だからこそ需要のないところに余計な人員は掛けられないというドライな視点も必要になったとも言えます。
特にスカイマークが数年前に乗務員不足による欠航が相次ぎ、路線改廃を柔軟に進めていた当時の背景から「急成長が裏目に出た」と同社特有の事象のように捉えられていました。
ところが2017年には近年新規就航や増便をほとんどしていなかったエア・ドゥがパイロット退社による欠航を相次いで発表、同年秋以降のスケジュールで岡山や広島から撤退しています。同時期には香港エクスプレスも乗務員不足を理由に欠航が続き新規就航を凍結する等、今や業界全体の問題です。
しかしそれでも連日満席に近い便はあるもので、以前ならさほど注目されなかった地方の観光地が国内外問わず多くの観光客で賑わっているのも確かです。
特にLCCではチケットの販売もチェックインもオンライン化や無人化が進んでおり、特に人口も少なくインフラも乏しい地方ではその流れは不可欠です。繰り返しますが今や地方でも平日でも外国人を中心に観光客が目立つようになりましたが、これは地方にもそれだけの数を受け入れられる環境(定期便の就航や予約システム、広告活動等)が整ったからに他なりません。
訪日観光客にせよ就職活動にせよ、地方創生や潜在需要の発掘という意味でも注目される制度と言えます。