JRE POINTはSuica乗車でもポイント付与に。JRが陸のマイレージに参入する理由。
JR東日本が展開するJRE POINTは元々駅ナカショッピングでの利用をメインとしていましたが2019年10月からJR東日本線乗車でもポイントが付与されるようになりました。監督官庁への届け出が必要な規制産業において、実質的な値下げとも取れるサービスを開始した背景を探りました。
- カード式0.5%モバイル2%の高還元率
- JRは「山手線内」「電車特定区間」「それ以外」で変わる運賃体系
- 湘南新宿ラインに近道で安価な東急、小田急が速達化でも対抗
- 京急空港線や京王相模原線は建設費償還で値下げ対抗
- JR埼京線と直通する相鉄もやがて東急との争奪戦に
- 新幹線と航空機はLCC台頭で価格勝負にもなってきた
- 「陸のマイレージ」で顧客囲い込みに挑む
1.カード式0.5%モバイル2%の高還元率
2019年10月時点ではSuica乗車およびグリーン券購入、モバイルSuica購入がJRE POINT対象。券売機のきっぷは対象外ですが、2021年春にはえきねっとを利用した長距離きっぷも対象になるようです。
参照:JRE POINTが遂に陸のマイルに。乗車でもポイントを貯めて特典乗車券でグランクラスに?
JRE POINTの付与率は運賃に対してカード式Suicaで0.5%、モバイルSuicaでは2%と4倍もの開きがあります。今やiPhoneシリーズに限らず多くのAndroid端末でもモバイルSuica対応機種は増えており、数年前に比べ機種のハードルは大きく下がりました。2015年ごろからは通信費用のやすい格安SIMとかMVNOと呼ばれる事業者でもモバイルSuica対象端末は当たり前のように出てきています。
Suicaは多くがJR駅で発行されており、PASMOを使いがちな私鉄沿線層や日頃マイカー依存の高い郊外でのユーザーにリーチできる可能性が高いのがモバイルSuicaの強みと言えそうです。
2.JRは「山手線内」「電車特定区間」「それ以外」で変わる運賃体系

同じ距離でも白線区間、黒線区間、それ以外の順に高くなるしくみ。JR西日本おでかけねっとより。
JRの運賃は距離によって計算される仕組みですが、同じ距離でもさらに「山手線内」「電車特定区間」「それ以外(電車特定区間にまたがる場合も含む)」に分類され、山手線内は安く、郊外に行くほど高くなる傾向にあります。詳細はなぜかJR西日本おでかけネットに詳しく距離ごとの運賃表があります。
同じような距離でも電車特定区間か否かで運賃が異なるケースが多々あり、特に東京都内や横浜市内はJR全駅が電車特定区間であるのに対し、千葉市の本千葉駅や東千葉駅、さいたま市の宮原駅や東大宮駅は区間外として割高な運賃設定がされるのが現状です。
簡単に言うと長距離では割高傾向にあると考えておけばいいです。
3.湘南新宿ラインに近道で安価な東急、小田急が速達化でも対抗
2000年代に入って湘南新宿ラインに対抗して運賃の安い私鉄がさらに速達化や増発が顕著になっていきます。
東急東横線は2001年に停車駅を絞った特急を新設。従来の各駅主体のダイヤから既存の急行と併せて優等列車主体のダイヤに転向していきます。2013年には東京メトロ副都心線への乗り入れもはじめ新宿三丁目、池袋へも直通しています。横浜へは距離的にも短く運賃面でも有利です。
また小田急線も2002年以降停車駅を絞った快速急行や湘南急行(のちに廃止)を新設。複々線化の進捗もありラッシュ時含めた大幅な時間短縮を果たしています。藤沢も小田原も新宿からは圧倒的に小田急が早くて安いのが事実です。
4.京急空港線や京王相模原線は建設費償還で値下げ対抗
JRも私鉄も運賃が監督官庁届出制である以上安易な値上げや値下げが出来ないのが現状です。但し例外的に建設費用を上乗せした区間が存在し、近年建設費償還で割増運賃を廃止して値下げに踏み切った路線があります。
京王相模原線は1970~90年代に開業した路線で、高架橋やトンネル工事のコストを加算運賃で賄う方式を採用。しかし2018年3月と2019年10月に相次いで加算運賃引き下げが進み、やがて廃止される見込みです。
京王相模原線は直接JR線とは競合しませんが、京王線自体が運賃が安く都心から八王子・高尾では京王有利。JR横浜線の八王子みなみ野、相原あたりは相模原線経由へのシフトが進みそうです。
一方1998年に開業した京急空港線も羽田空港発着運賃で加算運賃を徴収していましたが、建設費回収の見通しが立ったとして2019年10月にこれを引き下げ。品川~羽田空港で110円も値下げしています。
東京モノレールも2002年にJR東日本が一部株式取得したものの、運賃体系はJRとは独立しており、土休日空港発など割引乗車券を使わない限り現状都心の多くの地点で京急有利です。
JR東日本単体でも羽田空港と田町付近、大井町付近、東雲付近へと繋がる羽田空港アクセス線を計画していますが、完成まではまだまだです。運賃制度も未知数であり、上記の京急やJR成田空港線のように加算運賃が適用される可能性もあります。
5.JR埼京線と直通する相鉄もやがて東急との争奪戦に
2019年11月30日には相鉄線が西谷、武蔵小杉、大崎を経由してJR埼京線と直通運転を開始、念願の都心進出を果たしました。
一方で2022年度後半には東急東横線との直通も計画されており渋谷、池袋方面はJRと東急の競合が確実視されています。勿論距離的には東急経由のほうが短く、渋谷や新宿三丁目は商業施設に近い立地もJRより優位です。
そもそも従来相鉄線の利用者の多くが横浜駅からJRで都心方向へ向かっていたため、JR分の運賃収入自体も下がると予想されます。これに対し何かと手を打っておきたいのがJRの本音でしょう。
6.新幹線と航空機はLCC台頭で価格勝負にもなってきた
そしてJR長距離輸送と言えば新幹線。従来新幹線は航空機より安価で便数が多いのがメリットとして挙げられていましたが、ここ20年ほどで航空業界は規制緩和が進み、需給バランスに応じた変動運賃制が広まってきました。
特に余計なコストを省いて輸送に特化したLCCは顕著です。少しでも空席を埋めるべく需要のない便は安く、需要のある便は高く売られるようになり、東京からだと近い高知より遠い佐賀のほうが安いケースも出てきています。
一方新幹線は運賃+特急料金で決まる仕組みであり、いずれも運行距離に応じて計算されます。需要や季節による変動はほとんど無く短ければ安く長ければ高いのです。最近になってえきねっとお先にトクだ値等で運賃料金込みの割引チケットを販売するようになっていますが、認知度は低いです。
つまり、特に今後札幌や敦賀へ延長する長距離需要がそうですが、現代において新幹線にもはや価格的には優位にはないということです。既に九州では高速バスが低運賃と高頻度で路線を広げており、北海道新幹線に先んじて仙台~新千歳はPeachとエアアジアジャパンが180席級の「大型機」で市場開拓を始めています。
6.「陸のマイレージ」で顧客囲い込みに挑む
交通機関とりわけ鉄道運賃は規制産業であり安易な低価格化は必ずしも歓迎できません。高速バスのように規制緩和の結果供給過剰で消耗戦になったケースもあり、それを背景とした悲惨な事故も起きています。
しかし湘南新宿ラインのように「高くて遠回り」の道をわざわざ選ぶ人はいないのも確か。さらに運賃据え置きでの直通運転は実質的なスピードアップでありこれも既存JRにとっては脅威です。
首都圏の膨大な通勤需要でさえライバル進出の危機にさらされており、一方で需要は少ないが客単価が膨大な新幹線も、LCCはじめ航空便に対してかつて期待されていたほどの優位性が無さそうです。
JRが「陸のマイレージ」に参入するのには理由があるわけです。