JALも中長距離LCC設立へ。欧米のどこに&どうやって低コスト化するのか注目し予測してみた。
日本航空(JAL)が格安航空会社(LCC)を新規設立し、しかも北米やヨーロッパへの展開も視野に入れるという衝撃的なニュースがありました。新LCCはJALや出資するジェットスタージャパンとは別ブランド、商号未定としながらも2020年夏、ボーイング787-8型2機体制での運航開始を目指すようです。
公式プレス:新たに国際線中長距離ローコストキャリアの設立を決定
- 今更の国内・近距離国際線は生存競争の時代
- 欧米線は共同事業(JV)で高止まり?
- 欧州で長距離LCCは芽生えてる
- 既存エコノミーに比べ長距離LCCはそんなに苦行なのか?
- どうやって低運賃化するのかに注目
- どこに飛ぶのかにも注目
1.今更の国内・近距離国際線は生存競争の時代
確かにLCCと言えば近距離フライトを何度も繰り返すことでチケットを薄利多売するのが常でした。勿論利用者にとっては便数や目的地が多いほど便利で双方にメリットのあるビジネスモデルであることは変わりありません。
しかし国内線は既存の航空会社あるいは新幹線等も含めて飽和状態、近隣諸国でも需要が旺盛とは言え新興航空会社の設立は目覚しく、2016年には台湾のトランスアジア航空と子会社のV-エアが相次いで経営破たん、エアアジアジャパンも2013年に一旦解散し体制を改めて2017年に再始動するなど競争の激しい地域でもあります。
2.欧米線は共同事業(JV)で高止まり?
一方長距離路線は長距離を飛べる機材が高価なことや長時間&時差のある地域での必要な人員の確保、定期便運航に関する相手国との取り決め等ハードルが高く、新規参入はほとんどありませんでした。
近年は日米路線ではJAL&アメリカン航空が、ANA&ユナイテッド航空が共同事業(JV=Joint Venture)によって「どこにどの時間帯で路線を引くか」から運賃制度の設定、収益の配分までを2社で決める方策を採っています。
日本~欧州においてもJAL&ブリティッシュエアウェイズ&イベリア航空&フィンエアーの4社連合、ANA&ルフトハンザグループも共同事業を行っています。
共同事業は相手国との需要喚起や収益性向上に有効な方策である一方で、一種のカルテルでもあり航空運賃が高止まりする一因との指摘もあります。実際共同事業においては独占禁止法(米国反トラスト法)除外申請を行っています。
3.欧州で長距離LCCは芽生えてる
一方ここ数年でヨーロッパではLCCによる長距離路線も登場しています。ノルウェージャンはノルウェーやイギリス、アイルランドから欧州内のみならずアメリカ南部、ドバイ、バンコクへの長距離線を運航、座席指定や機内食が有料であることからLCCに分類されます。
ブリティッシュエアウェイズやイベリア航空を運営するIAGも2017年に長距離LCCブランドLEVELを立ち上げ、バルセロナとパリ(オルリー)を拠点に南北アメリカ大陸への長距離線を始めています。
シンガポールのスクートは日本を含めたアジア・オセアニアに次いでアテネ線、ベルリン線とヨーロッパ進出。エアアジアXと共に関西空港経由でホノルルにも就航しています。
徐々にではありますがLCC大陸間路線は広がりつつあります。背景には低燃費で航続距離の長い中型機ボーイング787登場や、既存のエアバスA330でも値下げや洋上飛行が緩和されたこと、関空~ホノルルのように路線認可が緩和されたこと等があります。
4.既存エコノミーに比べ長距離LCCはそんなに苦行なのか?
ここでよくある疑問が登場します。「LCCの狭い座席で長時間フライトは大変そう」という快適性への疑問です。勿論その程度のことはリサーチ済みのようです。
一般に短距離線に使われるエアバスA320の場合座席は3-3列配置、前後間隔は大手航空会社だと32インチ166席(プレミアムクラス含む)。LCCでは29インチ180席が標準と確かに詰め込んで席数を稼いでいます。
ところが長距離線LCCではジェットスターが僅かに狭いものの座席サイズに大きな違いはありません。ただ上級クラスの席数が少なく全体の定員もボーイング787-8では300席前後とANA国内線に近い収容力です。
むしろJAL国際線のエコノミークラスは横方向のゆとりが特徴的…というか席数が少なく旺盛な訪日需要の前には供給量不足と言えなくもありません。胴体が細い国内線767よりも少なく、むしろLCCのピーチやバニラのA320と大差ないほどです。
今回のLCC参入に関しても、訪日観光客数を2030年に6000万人という政府目標にも絡めており、低価格化に参戦というよりも現行のJAL国際線機材では「数を稼げない」との判断が少なからずあるような気がします。
ちなみにビジネスクラスで比較すると大手航空会社が長距離線では軒並みフルフラット&通路へ出入りしやすい構造なケースが多いのに対し、LCCではエアアジアXのプレミアムフラットベッドを除くとプレミアムエコノミーや国内線クラスJレベルの「寝るより座るが前提」の形状。ビジネス同士での比較であればLCCは格安な分快適性はランクダウンかなと言う印象です。
5.どうやって低運賃化するのかに注目
利用者視点では格安でもさほど苦行でないという一方で、それが事業として収益を出せるのかという問題もあります。ファーストクラス(これも最近は減少傾向)やビジネスクラスを多用する富裕層や、乗り継ぎ需要が取り込めないのは大きなネックです。
数少ない既存の長距離LCCの例や、僅か2機でスタート予定との発表から考えられるのはデイリー運航しないのは間違いないです。日本の大手航空会社の国際線はJALモスクワ線(冬季は週5便)など少数を除いて1日1便以上運航しており、定期的に一定以上の需要が見込める路線ばかりです。
一方LEVELのバルセロナ~ブエノスアイレス線が週4便、バルセロナ~ボストン線が週2便、スクートの新千歳線やアテネ線が週3便と長距離LCCでは毎日どころか2日に1便しか飛ばないような路線が結構あります。
これらは多くが観光需要であり、すぐに用を済ませてとんぼ返りしたがる人は少ないし、運航頻度は低くても構わないと考えられます。運航頻度が少ないことは現地空港での地上スタッフや交代の乗務員も少人数で済むという別のメリットがあります。
訪日外国人は滞在日数が長いとか欧米人のバカンスは長いとは良く言われますが、彼らからすれば飛行機が毎日飛んでいる必要性は無くて、長距離線ゆえに毎日飛ばさないのはある意味自然かつ合理的なのかもしれません。
公式プレスで説明される「高機材稼動」とは1機が曜日によって飛ぶ路線を使い分けたり整備に入ったりすることであり、「座席配置」とはビジネス席を減らしエコノミー席を増やして定員を稼ぐことと言えば「お客さまご利用人数」が増えていることと含め説明がつきます。
従来のLCCで言う早朝~深夜まで多頻度運航や詰め込み座席と「根っこ」は同じですが、長距離線なりのアレンジが必要なわけです。
6.どこに飛ぶのかにも注目
やっぱり気になるのは就航路線でしょう。「出資するジェットスタージャパンでは届かないアジアや欧米」くらいしか現状では定まっていないようですが、政治情勢や日本への渡航資格取得の容易さ、JALや提携航空会社と被らない地域となるとある程度の予測は立ちます。あくまで個人の予測ですが。
日本政府観光局(JNTO)による国別訪日外客統計(PDF)で見るとカナダ(2017年訪日27万人前年18%増:人口3600万人)やニュージーランド(2017年訪日5.6万人前年14%増:人口470万人)は人口の割に需要が旺盛で、日本からも語学留学やワーキングホリデーでの渡航需要もあります。流石にJALも就航するバンクーバーは競合が多そうですが、それ以外の直行便が無く生活費の安い地域がターゲットになりそうです。
欧州では伸び率トップのポーランド(2017年訪日3.1万人前年30%増:人口3800万人)はLOTポーランド航空の成田線就航の影響もあるでしょうが、20~30代の若者が多い人口構成や、ワルシャワ大学やポズナン大学等欧州有数の日本語学研究といった訪日需要開拓に有利な要素はまだまだありそうです。東欧自体が直行便の時短効果が大きく西欧より物価安でテロリスクが小さいことから観光立国化しつつあります。
訪日客も多く観光大国でもあり定期便の協定はあっても未だ無いというイスラエル(2017年2.9万人前年34%増:人口800万人)も盲点です。アジア路線は北京やソウルなど少数で、主流の欧州乗り継ぎに比べると直行便の時短効果は大きいです。