航空会社のマイルがただのポイントサービスではないこれだけの理由
さまざまな航空会社がマイルプログラムを用意していることは飛行機をあまり利用しない人でも聞いたことくらいはあると思います。ここではその本当の仕組みを説明したいと思います。
1.マイルの歴史
アメリカの航空事業規制緩和にともない1981年5月にアメリカン航空がAAdvantageの名称ではじめたのが最初といわれています(勿論今もあります)。距離に応じて搭乗情報を記録するする仕組みで、1マイル≒1852m、1海里です。
その後各社で同様のプログラムが導入され1990年代には日本のJALやANAも導入します。
2.マイル=乗客名簿である
非常時に備え、航空業では出発時に乗客名簿を作成することになっています。これが搭乗手続き(チェックイン)です。でもいちいち名前だ住所だ聞かれて書いていては面倒ですし、帰りも同じことをするのはもっと面倒です。
マイルは正確にはフリークエントフライヤープログラム(Frepuent Flyer Programme, FFP=常連客制度)と呼ばれ、氏名、生年月日、住所といった搭乗客の情報をあらかじめまとめて収集し、搭乗手続きを容易にするためのものです。このFFPという表現は航空会社の英語ウェブサイトなど対外的にはよく見られます。
楽天やアマゾンも、会員登録をしなくたって買い物はできます。でも毎回いちいち名前だ配達先だ支払方法だなんて書くのは面倒ですよね?だったら最初に会員登録して、次からは簡単ですよまた御利用ください、ってなります。それと同じことを航空業界ははるか昔からやっていたわけです。
またどこのFFPでも入会するときに間違いなく氏名や住所(郵便からeメールまで)、生年月日を聞いてきます。ほとんど匿名でも作れてしまうポイントカードとはこの時点で違います。マイルは個人情報の塊です。
3.マイル=お得意様台帳である
先に挙げたように同じ航空会社を複数回利用することでメリットが得られます。一方航空会社もその情報を把握するので、常連客を作りやすくなります。この常連客、後述するように色々な意味で特別です。
4.マイル=市場リサーチである
さて、航空会社が利用者の流れを掴むということは、需要の多い路線/少ない路線、近年では需要の多い時間帯/少ない時間帯というのも掴めます。勿論混雑する路線や時間帯ほど搭乗手続きにおいてマイル会員と非会員の差が付きます。
一番最初に書いたアメリカの航空規制緩和がまさにそれで、航空路線や航空会社の新規参入や運賃自由化を容易にして、需要の多い路線は増便したり、他社がが新規参入したり、需要の少ない路線はセールを行ったり、より柔軟な経営ができるようにした政策でした。よく利用する路線にマイル会員になっている航空会社とそうでない航空会社が飛んでたら、ユーザーは当然使い方の分かってる前者を選びたくなります。
5.マイル=外交手段である
実はFFPを採用する航空会社はほとんどが国際線を運航し、また国外の航空会社とマイルの提携を結んでいます。このマイルの提携にも何段階かあって、
- 相互提携だったり(JALとアメリカン航空)
- 片方のみの提携だったり(JALマイレージバンクとアラスカ航空)
- FFP自体共同運営とか(エールフランスとKLMオランダ航空のフライングブルー)
そのアメリカ航空規制緩和の結果、日本を含めアメリカに定期便が乗り入れている国でも国際線新規参入が叫ばれるようになります。
日米路線で言えば1980年代、それまで国内線中心だったユナイテッド航空とANAが新規参入します。新規参入とはいえ両社とも国内線では多くの顧客(=FFP会員)を抱えており、1990年代以降両社はFFPを相互提携します。一方JALもアメリカン航空と同様に提携します。
つまり新規参入でもバックに多くのFFP会員を抱えていれば路線開拓に有利だということですし、海外にもFFP会員を増やすことができます。実際日本にもユナイテッドマイレージプラス会員は一定数います。歴史にもしもはないと言いますが、もし日米の航空会社にマイルの提携がなかったら、9.11やリーマンショックを機に日米路線は衰退し、両国ともに現在ほどの繁栄があったかどうか・・・もしもですが。
このように国際線の路線拡大にはFFPによる囲い込みが大きな役割を果たしたといえます。相手国との関係を深めるという意味では経済や軍事と同じように外交の切り札と言えるかもしれません。
6.マイル=パスポートに次ぐ身分証である
先ほどマイルは個人情報の塊であり、一種の外交カードだと言いましたが、ならば外国に入国する際の信用度を判断する材料になるかもしれません。
実際香港の自動出入国審査システムe-channel(e-道)では外国人が登録できる条件の1つに、「過去12ヶ月間に3回以上香港に来ている」か「航空会社のFFP上級会員である」のどちらかを満たす必要があります。他の18歳以上であること、有効なパスポート等渡航文書があること、香港で国外退去命令を受けていないことという条件は簡単ですね。
つまり香港が初めてでも他の国を飛行機で何度も飛び回っているなら、何度も来ている人と同様に優遇するよ、ということです。勿論パスポートのICチップを利用した方法なのでパスポート自体必要なことは確かですし、香港自体入国審査が緩いこともありますが、FFPが入国審査に一定の判断材料になることはあり得るといえます。
7.マイル=ようやくプレゼントである
はい。ここまで貯まる、もらえる、お得というお約束の表現は一切してないです。しかし既にいくつもの役割を紹介できました。勿論会員が搭乗することによってポイントが得られるようにして、さらにもっと飛行機に乗ってもらうようにします。このポイントにも実は2種類あります。
・特典交換用マイル・・・いわゆるマイルです。搭乗以外にも提携施設での買い物や宿泊などでも貯めることができて、特典航空券やオリジナルグッズに交換することができます。この点はポイントサービスの一種とも言えます。
・会員ランク判定マイル・・・文字通り会員のランクを判定する指数です。JALマイレージバンクではFOP、ANAマイレージクラブではPP、他にレベルマイル、クラブマイル、Tier、MQM、PQM等と呼び名は色々ですが、搭乗でしか貯めることはできず、また何かに交換することもできません。また1年とか2年とか一定期間でリセットされます。
8.マイル=ステータスである
先ほどマイルは2種類あると言いました。特典交換用マイルが多いのはお金が多いのと同じで、より多くの特典と交換できる意味だというのは解りやすいと思います。
一方で会員ランク判定マイルはわかりにくいです。しかし搭乗の際にはランクが高いほど手続きや座席指定、手荷物などあらゆる面で優遇されています。ランクが上なら搭乗時いつでもこれらの恩恵を受けられますし、一定期間で判定マイルはリセットされるので搭乗実績によってランクアップ/ランクダウンすることになります。だったらランク維持のためでも飛行機に乗りたくなる面白い仕組みです。
これについてはいつか詳しく解説しようかと思います。
9.マイル=特殊機密である
マイルは個人情報と何度か言いましたが、これには飛行機の運航に必要だが一般には知らなくていい、あるいは知られたくない情報も含まれます。いわゆるセンシティブ情報というやつです。
例えばアレルギー等で機内食に制限がある人や、足が不自由で階段の昇り降りができない人は搭乗に際し特別な注意が必要ではありますが、広く一般に知られるべき情報でもありません。事前に申し出ることになっていますが、こういった情報も管理しているはずです。「管理してます」と明記されていませんが、運航に必要な情報を把握しているわけですから、おそらくそのはずです。
また国やFFPによっては医師や軍人など特殊な職業を登録し、万一の事態に備えるところもあります。
10.マイル=歴史である
手に入れては失い、ランクが上がったり下がったり、時には世界が広がったり。一方で入会しても何もしない人もいます。まさに人生そのものです。
実はいくつかのFFPはライフタイムマイルという入会以降どれだけ飛んだかを示す指数を用意しています。これは特典に交換できませんしリセットもされません。減ることなく累々と積み重ねることができるマイルです。
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