ANA国内線シート刷新で見えること。情報化と人口減少時代に備え、上級クラスの常連化促進へ。
ANA国内線機材のうち幹線向け大型機ボーイング777-200と787-8でパーソナルモニター付きの新型シートを2019年秋から順次導入します。既に2017年秋から中規模地方線向けのエアバスA321neoではパーソナルモニターやUSB電源を装備していますが、これに準じた内容で導入が進むようです。
ANA公式プレス:パーソナルモニター付きの新シート導入により、さらに快適で充実した国内線の旅を提供します
- 全クラスパーソナルモニター&電源装備
- プレミアムクラスを12席/21席→28席まで増加
- トータル定員は4~9%削減へ。国内幹線縮小の見込み。
- LCCに新幹線の台頭で価格競争は一段落?
- 増えるプレミアムクラスは客単価向上と上級会員獲得が目的?
1.全クラスパーソナルモニター&電源装備

エアバスA321neoキャビン。194席で羽田から地方路線向けの機材です。
A321neo同様にプレミアムクラス、普通席共にパーソナルモニターと電源が設置されます。国際線の標準的なもので中国路線に使われるA320neoと同様のものが採用されているようです。
以前からパーソナルモニター付き新シート拡充は発表されていたのでこれ自体に大きな驚きはありません。ただ電源がUSBに加え110Vユニバーサル電源も追加されていたり、カップホルダーが出し入れしやすい形状になる等、細かな改良が加えられています。
2.プレミアムクラスを12席/21席→28席まで増加

プレミアムクラスの新シート。タッチスクリーンのほかリクライニングも電動化。
一方でプレミアムクラスも改良されます。現在大型機で採用される濃紺色のシートの導入が2012年なので約7年ぶりのモデルチェンジと言えそうです。
注目なのが座席数の増加。777-200が21席、787-8が12席から共に28席まで増加します。ちなみに改修発表のない767-300は10席。短通路機の737やA321neoでは8席です。
プレミアムクラスは席数の少なさから予約やアップグレードが困難なケースもありましたが、そのチャンスも増えそうです。
3.トータル定員は4~9%削減へ。国内幹線縮小の見込み。
プレミアムクラスが増えた分、普通席は減少してトータルでの座席数も減少しています。777-200は405席→392席へ、787-8は335席→312席と減っています。かつての747-400や最近稼働率の低い777-300が500席オーバーだったことを考えると、国内幹線も300席クラスで事足りるようになったと考えられます。
ライバルのJALも2019年後半からエアバスA350-900を羽田から福岡、那覇線に導入しますが、ファースト、クラスJ、普通席の369席。やはり現行777-200の375席から減少しています。ファーストクラスが2席減っていますがクラスJは11席増えています。
4.LCCに新幹線の台頭で価格競争は一段落?
国内線航空機のダウンサイジングは10年ほど前から始まっていました。神戸空港や北九州空港などの新規開港や、Peachやジェットスタージャパン等のLCCの台頭もあり、小型機の多頻度運航化が一層加速していったためです。
さらに九州・北陸・北海道新幹線の開業や既存新幹線の増発もあり、羽田から東北・北陸・中国地方への路線で航空需要が減ったのも確かです。
低価格化しようにも新興LCCも育てていかなくてはなりません。PeachはANAの、ジェットスタージャパンはJALの傘下にあるというのもありますが、成田や関西は空港施設使用料の安いLCCターミナルを建設するなど行政レベルでもLCCの成長に期待がかかっています。
そもそも2005年から続く人口減少は国内マーケット自体の縮小を意味しています。大型機の空席を埋めるために格安チケットをばらまくという従来のビジネスモデルも必然的に限界が見えてきたと言えます。
実際500席クラスの777-300はJALもANAも持て余し気味、後継機種も発表されていません。ANAが当初国内幹線向けに2015年に発注した787-10も、結局国際線用として2019年に納入され需要旺盛な東南アジア路線に充てられています。
5.増えるプレミアムクラスは客単価向上と上級会員獲得が目的?
需要が減っている分座席数も減りますが、一方でプレミアムクラスは増加。プレミアムクラスは運賃が高額なのでこれでは実質的な値上げとも取られかねません。確かに客数が減っていく中で利益を上げるには単価を上げる努力が不可欠です。
しかしプレミアムクラスは機内食やラウンジなど高い運賃に見合ったリターンがあるのも事実。特にマイルの積算が増える(普通席の1.5~3倍)のでフライトを重ねれば、特典航空券へ交換出来たり、会員ステータスを上げて普通席利用時もラウンジを利用できる等、継続的な利用を促す仕組みがあるのです。

関西空港の国内線ANA LOUNGE。主にプレミアムクラス利用者が搭乗前に利用できる。
並行してここ数年でJALもANAもラウンジの拡張/改修に力を入れてきました。多くの利用者には縁のない施設をわざわざ改修するのも、単価の高い常連客を増やす目的があると考えていいでしょう。
確かに価格面では東京から新千歳、福岡あたりは成田発着のLCCや羽田でもスカイマークは運賃も安くそこそこの便数が飛んでいますし、秋田、富山、岡山、広島あたりも運行本数は新幹線が圧倒的。
単に2地点間の移動だけを見ると、大手2社の航空便は価格でも便数でも特に強みが無いのも事実です。だからこそ常連化促進に舵を切ったともいえそうです。