これでいいのか成田エクスプレス…本数無さすぎ、料金高すぎ、自由席なし。本当は満員になるくらい乗せるべき。
成田空港のアクセス列車として知られるJR特急成田エクスプレス。ですがいざ成田空港へ行くとなるとなかなか使いづらいもので、特に価格と本数がネックで積極的には選ばないアクセス手段と言えます。
- N’EXの高さ不便さがわかる比較
- 羽田、関空、地方空港以下の水準に
- 海外空港と比較しても悲惨
- 全席指定の上に実は座席が少ない
- 元々N’EXは欧米ビジネス客を想定
- 海外旅行普及で日本的過剰サービスの象徴に
- 総武快速・湘南新宿ラインの混雑の邪魔に
- 自由席で品川~成田空港の多頻度運行が理想
- 東京五輪までに改善なるか?
1.N’EXの高さ不便さがわかる比較
成田空港(第一)から東京駅もしくは京成上野駅までの所要時間と運賃総額の比較。成田エクスプレスは早朝7時台の東京発が3本あるほかは30分おきが基本、夜は60分空くことが多く、新宿や横浜だと朝も毎時1本。池袋に至っては2時間空くことも多く「時刻表を読まないと使えない」レベルです。
対して京成スカイライナーは40分間隔になることもある反面、午後の成田空港発が毎時3本あり、この時間は通勤通学需要が少ないことと合わせて、欧州やアジアからの到着に便利な時間を増発するなど需要をよく読んでいると言えます。全便が日暮里と上野に止まるので停車駅による本数のばらつきもありません。
また一見所要時間で不利と思われがちな京成本線特急や「THEアクセス成田」や比較表には出ていない「東京シャトル」等のバスも、待ち時間の少なさでは有利な上に値段も半額以下と利用価値は高いと思います。
参照:成田空港からのアクセスに迷ったなら京成本線特急が万能という説。
あくまで個人の実感にすぎませんが、連休以外であれば成田エクスプレスは隣が空席であることが多く、バスは繁忙期でなくても隣の席も高い確率で埋まることが多いです。
2.羽田、関空、地方空港以下の水準に
今度は成田エクスプレスと国内他空港のアクセス鉄道の比較です。羽田、関空、千歳、福岡いずれも「待てば来る」程の運行本数があり、概ね1000円程度で利用できます。特に福岡空港は博多のすぐ近くということもあり遠方からのアクセスに有利と言えます。
また意外にも札幌~新千歳空港も約45kmと、そこそこの距離がありながらも途中駅で通勤通学客を拾いながら40分で結んでいるところはかなり健闘していると言えます。早朝以外全て快速、空港駅には常に電車が待機する状態です。
国際線はもっぱら成田というのはとうの昔、今や他の4空港も急激に躍進しており特に羽田と関空は東南アジアはもちろん北米やオセアニア、中東まで定期便があります。このように海外からの到着地として考えると、既に成田空港&成田エクスプレスの不便さが一層目立ってしまいます。
3.海外空港と比較しても悲惨
世界の国際空港のアクセス鉄道に関しても比較してみました。いずれも当たり前のように待てば来る本数で事前予約は不要です。
台北の桃園空港はかつてはバスで1時間ほど掛かる不便空港でしたが、2017年に桃園捷運MRTが開通しアクセスは大幅に改善され値段も良心的です。
香港の機場快線やロンドンのヒースローエクスプレスもやや高めではありますが、通常バスや地下鉄で1時間前後かかるところを15~25分で結ぶことから時短効果はかなり大きいです。ヒースローエクスプレスにはウェブサイトでの事前購入割引もあり2週間以上先や週末は安くなります。もちろん列車や座席の指定は無いので到着が遅れても安心です。
特にヒースローエクスプレスと比べると明らかですが、座席指定(=時刻指定)が必要で待ち時間も長く、時短効果も薄いのに値段が高い。これではどこから来た人であれメリットはありません。もっともヒースローエクスプレスも線路工事で30分間隔に減便される日もあり万能でもないのですが…
4.全席指定の上に実は座席が少ない
確かに成田エクスプレスは新宿駅に専用ホームができたり、臨時で横須賀や河口湖への延長運転も行われる等テコ入れも進んでいますし、外国人利用者も目立ってきています。
12両編成の列車が30分おきに運行しており、特急列車という意味では一部が12両編成の中央線甲府・松本方面や、現在は10両編成の常磐線水戸・いわき方面を凌ぐ輸送量があるように見えて、実はカラクリがあります。1両の座席数が少ないのです。
2001~2019年まで中央線特急で運用されたE257系電車。出入口は1両に1箇所とし座席部分が多く、座席は970mm間隔で72席。常磐線や房総方面の特急もほぼ同じ仕様です。
現在成田エクスプレスで運用されるE259系電車。車両の両端に出入口があり座席は1020mm間隔とかなり広く、出入口と窓の間の空間は荷物置き場でチェーンロックも付く等、空港アクセスにふさわしい設備もありますが、定員は僅か56席とE257系の約4分の3しかありません。
5.元々N’EXは欧米ビジネス客を想定
成田エクスプレスは1991年の運転開始当初は先代253系電車のグリーン車1両+普通車2両の3両編成、これを組み合わせ3~9両で運用していました。
当時は航空便も少なく昼前に出発する欧州線、夕方に出発する北米線の出張利用者がターゲットでした。企業の出張担当やクレジットカードのコンシェルジュデスクが航空券と共に成田エクスプレスのきっぷを手配というのを想定していたようです。現在でもダイナースクラブトラベルデスク等が行っています。
企業のオフィスや自宅へのアクセスも比較的容易な東京、新宿、池袋、横浜を運転開始当時から発着駅に、埼京線ホーム開業後の1996年から渋谷も停車。特急料金は関東近郊の中央線や常磐線、房総各線の(B特急料金)ではなく成田エクスプレスは割高なA特急料金が適用されます。座席は全て指定席で、グリーン車には1人掛け席や個室も用意されていました。
その後は成田空港拡大や為替相場の影響で国際線が安くなったことや、羽田空港の国際線拡張でビジネス需要がそちらにシフトしたことから合間を縫ってLCCが躍進したりで、成田発着の航空便の増発と低価格化が進行しつつあります。大手航空会社でも不便な成田発着国内線は搭乗率維持のために結構ディスカウントを行っています。
実際日本の大手2社は1日1便のロンドン・パリ線は羽田シフト済み、2便以上あるニューヨーク・香港は成田と半々です。一方ここ20年ほどで増えたアジア路線。現地での新空港開港や新興航空会社・地方路線の認可によって2都市以上路線がある国も増え、供給拡大→低価格化が進んでいます。
例えば東京~成田空港を成田エクスプレスでは片道3020円、往復で6040円。空港発の発売はないもののN’EX往復きっぷ(前日まで発売。14日間有効)を使えば往復4940円。
しかし一方で5000円6000円あればLCCでは札幌(新千歳)やソウル(仁川)の片道航空券は容易に見つかります。閑散期やセールを狙えば国内他都市や台湾、中国、フィリピン等も購入可能圏内です。そうやって地方あるいは国外からやってくる人は確実に増えています。
6.海外旅行普及で日本的過剰サービスの象徴に
成田エクスプレスのサービスは4ヶ国語での運行情報やフライト情報、無料Wi-Fi(登録制)、AC電源コンセント(但し日本・台湾・米国規格)、ロック式手荷物置き場といったものは確かに便利ではあります。
ただ、自動音声や文字での次駅程度の情報は今や地下鉄にもあるし、施錠しない荷物置き場は多くの空港アクセス鉄道にもあって、羽田モノレールは無料Wi-Fiも始めています。成田エクスプレスだけが高いのは、
- 1020mmのシートピッチ(国際線プレミアムエコノミー以上)
- 必ず座れる全席指定席(=必ず事前便指定が必要)
- 都内等複数駅に直通(但し運賃は距離により変動)
- 空港駅や新宿駅に専用待合室
これだけのサービスがあるのだから高額な料金も仕方ないと考えているなら、現代の需要や他空港、他交通機関の実情が全く見えていない絵空事というか驕りでしかないと思うんですよね。同様に全席指定だった関空特急はるかも流石に乗車率の悪さから1998年に6両中3両が自由席に変更されています。
海外の場合空港から都心への鉄道に座席指定など無いのが一般的です。前述の香港機場快線もヒースローエクスプレスも全車自由席ですし、ピーク時には満席で立ち客が出るのも当たり前です。
そもそも飛行機が30分も1時間も到着が遅れることはあり得るし、逆に長距離線では30分も1時間も早く着くことがあります。これで空港を出る時間を決めろというのは無理があります。
何と言っても成田空港は東京を代表する空港。その東京で電車が1時間に2本あるかないかって明らかに少ないです。加えてJRでは成田空港から一応毎時1本程度千葉・東京方面の快速電車がありますが、あまりに遅く少ないので結局「快速エアポート成田」の称号を捨ててしまいました。
百歩譲って成田エクスプレスが連日全便満席御礼なら一つの選択肢として「アリ」ですが、現状はむしろ逆で夜の東京発は千葉や四街道に止めて帰宅需要を狙ったり、逆に大船方面に割引料金券を出したりで空港アクセスとしては「任務放棄」しているくらいです。いずれにせよ現状の成田エクスプレスは日本特有の「過剰サービス」の象徴でしかありません。
7.総武快速・湘南新宿ラインの混雑の邪魔に
成田エクスプレスの乗車率が低いことのもう一つの問題は、列車の走る総武線快速と湘南新宿ラインの混雑です。前者は新橋や日本橋界隈を通るビジネス路線で、後者は乗り換え無しで埼玉・神奈川方面へ行けるルートとして高い需要があり、路線改良工事を経て毎時4本運転が実現しています。それでも東京の電車としては少ないほうです。
これだけ混雑している路線でスカスカの特急が走っているのは無駄でしかなく、通勤電車増発の妨げの一因になっているのは事実です。特に大崎駅南にある東京駅~新宿方面&大船方面の分岐部分は平面交差で成田エクスプレスと湘南新宿ラインがすれ違えないボトルネックです。
8.自由席で品川~成田空港の多頻度運行が理想
利用者数がなお右肩上がりの成田空港で、旧態依然の高い料金と乏しい本数・席数を堅持しているのは空港利用者・通勤通学者双方にとって合理的とはいえません。
現状の車両数と線路で都心~空港のアクセスを最大限増やすためには、例えば品川・東京~成田・空港第2ビル・成田空港に区間を絞って毎時4~5本程度に増やすといった工夫は必要でしょう。現在の千歳空港線快速エアポートのような運転体系です。ただ成田空港側にも単線区間があるためここもネックです。
高すぎる料金体系も見直し、グリーン車はまだしも普通車は自由席で十分です。勿論特急料金収入は減ることになりますが便利であれば客数は増えるし、実際都市部の通勤電車は勿論、東京シャトル・THEアクセス成田も同様の薄利多売で顧客を増やし拡大しているのです。
同じく全席指定の京成スカイライナーや南海ラピートは、便指定とはいえ一部航空会社の機内販売割引など安くて利用しやすい販売策で比較的乗車率は高いようです。中部国際空港の一部列車も全席指定ではあるものの、料金が安価でバス含め実質的に空港アクセスが名鉄独占であることから成田空港ほどの不均衡は現時点ではなさそうです。
繰り返しますが空港から市内への電車が立ち客が出るほど乗っているのは(理想的ではないにせよ)どこの空港でも当たり前ですし、料金体系の簡略化は窓口や券売機の行列も解消が期待できます。
何より現在辛うじて好調な高速バス群もドライバー不足の問題からこれ以上の進展は期待薄。12両でも運転士1名で足りる鉄道は輸送量でも生産性でも不可欠なのです。
9.東京五輪までに改善なるか?
結論からいうと多少なりとも改善するでしょう。成田エクスプレス自体が過去にも長野オリンピック前の1997年とFIFAワールドカップ前の2002年にも車両追加を伴う増発をしていますし、古くは1970年の大阪万博でも東海道新幹線の大増発が行われています。
また従来JRの特急列車は指定席と自由席に分かれていましたが、近年高崎線や常磐線、そして中央線の特急が全車指定席としつつも空席を自由席として利用できるよう料金体系を改めており、座席には空席表示ランプも設置されています。座席未指定でも乗車可能で指定の有無や時期に関わらず料金は同じです。
となればこのルールが成田エクスプレスにも普及する可能性は高く、その場合高崎線常磐線の100km未満の特急料金1000円が適用され、現行の1700円(通常期)より値下げされます。結局成田空港から東京駅まで3020円→2320円、品川・渋谷・新宿・池袋が3190円→2490円と、他空港に比べ割高とは言え何とかスカイライナーレベルまで下がると推測されます。
いずれにせよ国際空港需要は今後右肩上がりであることから都心部へのアクセス手段も供給方法を変えていくことは間違いなく、当然鉄道事業者にとっても収益増が期待されるわけで、何らかの動きがあると思われます。
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