JR東日本、JR西日本が相次ぎ変動制運賃導入を検討。通勤電車も特急新幹線もこう変わる!【ズバリ予想】
JR東日本が新型コロナウイルスの影響による利用客の減少や生活様式の変化に対応するため、時間帯別を含めた新たな運賃体系の検討を始めると発表しました。都心部での通勤ラッシュ回避や新幹線など遠距離列車で「ピークを分散させ長期的な経営が成り立つためにコストやダイヤ、運賃を見直す」ことになるようです。
報道発表:【時事通信】JR東日本、時間帯別運賃を検討 新型コロナで社会変化
一方その約2週間後、JR西日本も同様の時間帯別運賃を検討していると報道されました。こちらは終電の繰り上げや車両数を減らす等具体的かつ利用実態の変化に合わせて縮小するようです。
報道発表:【SankeiBiz】JR西日本も時間帯別運賃を検討終電の繰り上げも
- 割引率の高い定期券旅客が混雑の激しい時間帯に集中する
- 大手私鉄が導入する「時差回数券」「土日回数券」
- JR西日本が導入する「時間帯指定」「回数」ICOCAポイント
- JRE POINTはSuica乗車でも加算開始。ボーナスポイント検討も発表済み
- 景気や連休並びに左右される新幹線&特急列車
- 航空券や高速バスで導入が進むダイナミックプライシング
- 整備新幹線も常磐線特急も閑散期需要喚起なくして利用者は増えない
- 課題は乗車直前に買うというSuica前時代の慣習、えきねっとのUI
1.割引率の高い定期券旅客が混雑の激しい時間帯に集中する
現在の鉄道業界の問題はこの1つに集約されます。膨大な車両数と高頻度かつ安全に運転するシステム、広い駅構内や数多くの連絡通路、迅速な改札機での運賃処理…すべてはラッシュアワーをしのぐために設計され日々進化し続けています。
しかしそのピーク時利用者の多くは割引率が高く期間内ならいつでも乗り放題の定期券利用者です。収益性の低いニーズの為に多額の投資をするのは経営上適切とは言えません。したがって収益性の高い顧客=定期外旅客収入を増やそうとする傾向にあります。東武鉄道や京王電鉄などが有料座席を用意するライナー列車をこぞって導入する背景もまた同じです。
2.大手私鉄が導入する「時差回数券」「土日回数券」
定期券ほどではないが何度も利用するなら割安な回数券。しかし現在JR東日本では回数券は10回分の運賃で11枚セットの普通回数券一種類のみであり、しかも窓口販売を終了し指定席券売機でのみ取り扱うなど、回数券の発売にはかなり消極的な印象です。Suicaを普及させたいのは確かですが。
さらにSuica乗車でも金額当たりカード式で0.5%、モバイルSuicaなら2%の乗車ポイントを付与するようになったので、10円未満割引と合わせて、あるいはきっぷを買うという手間を考えてもJR東日本首都圏ではもう紙のきっぷのメリットは無くなったといっていいでしょう。
参照:JRE POINTはSuica乗車でもポイント付与に。JRが陸のマイレージに参入する理由。
しかし東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄(成田スカイアクセス線等を除く)などは、名前は異なれどピークを避けた割引率の高い回数券も含め3種類用意しているところが目立ちます。小田急電鉄は10枚セットに統一して発売額を変えていますが基本的に同じ仕組みと考えていいでしょう。
- 普通回数券(時間帯制限なし。11枚セット)
- 時差回数券(平日10~16時及び土休日のみ。12枚セット)
- 土日回数券(土休日のみ。14枚セット)
いずれも普通運賃10回分の値段なので土日しか使わない条件であれば約30%もの割引率。さらに東急電鉄や東京メトロは区間指定ではなく金額指定なので、同じ200円区間券を池袋~渋谷と新宿~銀座で使うこともできます。私鉄各社もPASMOが普及している一方で、柔軟ながら利用回数の多いニーズをあえて紙の回数券で取り込んでいます。
3.JR西日本が導入する「時間帯指定」「回数」ICOCAポイント
同様のオフピーク回数券を発売していたもののICカードのポイント付与方式に切り替えたのがJR西日本の京阪神地区。

ICOCAポイントの獲得方法(JR西日本プレスリリースより)
同一運賃区間の月間利用回数に応じてポイント付与する方式なので回数券を買う手間もなく有効期限切れのリスクもなくなります。但し回数券の有効期限が購入後3か月なのに対し月間(1日~末日)と期限が短くなっていることと、実際の駅間ではなく運賃区間なので新大阪~大阪も大阪~京橋も同じ160円区間として扱われる辺りは、関東で言う東京メトロや東急電鉄、東京都交通局(但し時差回数券・土休日回数券設定なし)と同じようです。
11回目以降なので12回以上使えば毎回加速度的にポイントが加算されオフピークのヘビーユーザーほど還元率が高い「脱通勤定期券」的な運賃体系です。
おそらくはJR西日本の場合、現状京阪神地区で見られる時間帯指定ポイントの仕組みを地方路線にも拡充していくと思われます。
その後京阪電車も2020年12月から同様のポイント還元制度を導入するようです。但し同じICOCAを使うものの京阪独自のポイントになるようで、また既存の回数券は普通回数券も含め発売を終了し完全移行するというかなり思い切った戦略です。
公式プレス:ICOCAによる新サービス「京阪電車ポイント還元サービス」の開始について
4.JRE POINTはSuica乗車でも加算開始。ボーナスポイント検討も発表済み
このような私鉄各社に比べると運賃は高めで目立った割引制度もないJR東日本の首都圏路線でしたが2019年10月からSuica乗車でもJRE POINT付与が始まっており、2020年12月をめどに回数券に類似した回数乗車ポイントも計画されているようです。
参照:JRE POINTが遂に陸のマイルに。乗車でもポイントを貯めて特典乗車券でグランクラスに?
オフピークポイントや土休日ポイントの有無や対象となる路線エリア、既存の乗車ポイント同様モバイルSuica優遇はあるのかなど具体的な発表はありませんが、2020年7月の「時間帯別運賃検討」報道を見る限り何らかの形で仕掛けてくる可能性が高いです。
5.景気や連休並びに左右される新幹線&特急列車
一方日中と朝晩で需要格差のある通勤電車とは異なり、新幹線や特急列車は閑散期と繁忙期の需要格差が大きい路線が多いのが特徴です。これにあわせて以前なら旧式の予備車両を用意しておくケースが目立ちました。繁忙期の日数が少なく走行距離の長さから1車両が1日に運用できる便数が少ない為です。
例えば中央線特急は2002年にE257系で置き換えられた国鉄時代の183/189系は、その後臨時列車として2018年まで実に16年も残存していました。が、連休初日に下り列車を設定するために逆方向に回送列車を走らせるなど運用効率も稼働率も悪いもので、利用者数も当日の天候にも左右される不確実なものでした。
しかし地方で進む人口減少やより高い安全性の運行システムのアップデートを考えると、旧式の予備車両を多数抱えることが合理的でなくなってきます。実際後述の航空業界に繁忙期用の予備機材という概念はありません。駅も自前で用意する鉄道業界と空港に着陸料を払う航空業界を同じ視点で比べるのは難しいですが、オペレーションを単純化したほうが定時運行や安全性は向上する可能性が高く、ビジネス的には安定するのは確かです。
6.航空券や高速バスで導入が進むダイナミックプライシング
新規参入が無く運賃が高止まりしていると言われた航空業界では、羽田空港が拡張した1990年代後半から事前購入割引や早朝深夜など搭乗率の低い便限定割引などで部分的な値下げが始まります。

西武バス東京~新潟線の運賃カレンダー例。最大2か月先まで発表され連休や夜行便が高値傾向。
2010年代になると高速バスでも(ツアーバスの規制緩和から再規制の流れもあり)変動制運賃が認可され西武バス系列が新幹線と競合する長野、新潟、上越、富山線に導入。同社はカレンダー運賃として同じ路線の運賃を運行日と便によってSS→S→A→B→C→Dと最大6段階で区分けし、最高値SSと最安値Dで2倍以上開きがあります。
長野線は2019年9月に撤退しましたが後継の京王バス系列でもカレンダー運賃こそ無いものの新宿~長野1500円のキャンペーン運賃を定期的に出しています。
参照:【信州紀行’18①】アルピコ交通バスタ新宿→長野駅乗車レポ。本当に1500円でWi-Fi完備とか間違いなく新幹線以上。
航空会社のようにリアルタイムで変動する訳ではありませんが、その分高い便安い便が明確で取消手数料も100円程度と良心的です。一方で安い便でも当日の乗車率は低く収益性も疑問が残りますが…。
7.整備新幹線も常磐線特急も閑散期需要喚起なくして利用者は増えない
かつて”高くて速い新幹線”か”安くてゆっくりの高速バス”かという棲み分けがありましたが、このような高速バスのウェブ予約や閑散期に注力した低価格戦略と北陸新幹線金沢開業に伴うとき号/あさま号の減便&停車駅増加によるスピードダウンでその差はかなり縮まっているのは確かです。
新幹線は今や北海道にも直通。しかし新函館北斗駅が函館市街から遠いことや函館空港の発着便が少ないことから現状では辛うじて有利というだけにすぎず、札幌延伸時に現行の距離制の運賃+特急料金という体制を続けても、複数社参入で価格競争の激しい航空便とは勝負にならない現実が待ち受けています。
九州新幹線が東海道新幹線直通を諦め新大阪発着に焦点を当てたように、東北から北海道の地域間輸送に特化する手もありますが、既にPeachとエアアジアジャパンが仙台~新千歳線開設を表明しており、鉄道のシェア拡大は東北の在来線特急ネットワークを鑑みても厳しいと言えます。

常磐線の特急ひたち号。当初いわき以南での運転に短縮する計画だったが2020年3月に仙台乗り入れが復活。
同様のことは2020年3月に全線が復旧した常磐線にも通じます。品川・上野~仙台に3往復の特急ひたち号が設定されましたが、上野~仙台の所要時間は約4時間40分と新幹線の2倍以上かかるのに”正規料金”では2000円程度しか変わらないのです。正直積極的な選択肢にならないのが現状です。
参照:常磐線特急が仙台乗り入れ復活。新ダイヤと料金体系は首都圏~仙台乗り通し固定客を掴めるのか?
速度や時間は技術面で引き上げは難しいのは確かですが、一方で人気列車は繁忙期に満席御礼となることも多く、結局毎日運行するなら価格面のアドバンテージが必要という結論に至ります。
あくまで推測ですが、一見商圏の離れたJR東日本とJR西日本がこのタイミングで相次いで変動運賃の検討を表明したのは、2022年度末北陸新幹線敦賀延伸を機に踏み切りたいのでしょうか?現状北陸新幹線のみに限ればえきねっとでもe5489でも割引運賃制度や残席数は統一されていますが、JR東日本の新幹線が2021年3月までえきねっとお先にトクだ値スペシャル50%割引を継続する中で北陸新幹線だけは2020年9月で終了が予告されています。
参照:”新幹線半額”に踊らされないために。えきねっとお先にトクだ値で注意したい点まとめ。
8.課題は乗車直前に買うというSuica前時代の慣習、えきねっとのUI
勿論JRも手をこまねいているわけでもなく、2000年代後半にはえきねっとやモバイルSuicaでの事前購入割引を始めています。ただ実際には目立って安いチケットが溢れているわけではなく、特に駅ではセール運賃を前面に出した広告すら見かけません。週末パスや3連休パス等のフリーパスを使った方が(別途特急料金を払っても)安いケースもあったり、それならば特急券は当日買っても良い訳です。
しかし一方で2000年代前半には新幹線でも指定席券売機や自動改札機が導入されており、首都圏の通勤路線のように省力化ができる環境にはあります。しかし現実には閑散期と繁忙期の極端な需要格差や複雑すぎるきっぷの運用などの問題があり、加えて人口減少による人員不足と閑散期の更なる需要減がのしかかってきます。鉄道会社側としては新幹線も通勤路線レベルの省力化を進めたいわけです。
ところがそれに反してSuica導入前の在来線の感覚で新幹線でもきっぷは乗車直前に駅で買うものという認識が鉄道ファンから不慣れな利用者までユーザー全般に幅広く根付いているのも事実です。

えきねっとのトップページ。検索ボックスが無くどこから調べて予約するのか分かりにくい。ちなみにJR東日本のトップページではJR東日本の新幹線と首都間発着特急列車だけは直接検索可能。
一方で時代遅れなオフライン発券が好まれる理由の一つが首都圏発着以外は路線名や列車名を知らないとチケットが探せず、最後まで価格表示が無くや日程を変えた再検索もできないえきねっとの使いづらさにあります。
例えば今年リニューアルされたJALのトップページの例が超わかりやすい。ひらがなでも3レターコードでも頭でなくても候補がヒットするし、一覧から選ぶこともできる。
初心者でも慣れた人でも使いやすい。
えきねっとやe5489もこのくらいしてほしいところです。 pic.twitter.com/aj38Ol7bZG— kenzy@JRE POINTマイラー (@kenzy201) July 20, 2020
この辺は航空会社のウェブサイトのほうが秀逸です。利用頻度は鉄道よりはるかに少ないがゆえに予約が不慣れな人や地理感覚のない人にも使いやすく、時間帯や安い順などの並べ替えから安い運賃でも獲得マイルや便変更の可不可まで一覧で出ます。
ホリエモン「金ない癖に飛行機が一番高い時期に旅行するとか頭悪い」
まさに年末年始がそれ。成人の日の3連休にずらすだけでも半額になる。価格差は最大5倍も開く。同じものを繁忙期に高く閑散期に安く売る構造だから。#帰省ブルー #小正月 #ダイナミックプライシング pic.twitter.com/DIh09IIJDZ
— kenzy@JRE POINTマイラー (@kenzy201) December 24, 2019
低価格を売りにするジェットスターなどのLCCは週間もしくは月間最安値一覧(PC版のみでスマホでは前後3日)で安い運賃がどこにあるのかは明瞭に。検索画面も低価格で利用したいユーザー向けに設計されており、旅行日程の候補が複数あるなら一目瞭然です。
えきねっとやe5489が未だに冊子の時刻表ありきの設計であり、発券システムのUIも商品知識と端末操作スキルを持った窓口職員向けから、路線名など背景知識の乏しい利用者も含めた一般向けに視点を変えていくことは不可欠でしょう。せめてじゃらんネットやタイムズレンタカーのように日本地図が出て関東地方>千葉県>千葉市周辺/成田空港周辺/TDR周辺といった絞り込み方式にはしてほしいところです。