常磐線特急が仙台乗り入れ復活。新ダイヤと料金体系は首都圏~仙台乗り通し固定客を掴めるのか?
2020年3月14日改正で2011年3月の東日本大震災以降不通となっていた常磐線が9年ぶりに全線復活します。これにあわせ特急ひたち号が上野・品川~仙台に3往復設定されます。4時間を超える長距離特急は果たして成功するのかという点を検証したいと思います。
- 当初いわきで系統分断予定だったが…
- 4両から10両に4往復から3往復に。首都圏寄りのダイヤに
- 復旧断念する路線も多い中で常磐線が残った意味
- 敬遠される長距離乗車そして「乗り換え」
- 新幹線、高速バスに次ぐ第三の選択肢に?
- えきねっと割引がいよいよ本領発揮?
- JRE POINT特典チケットを仕掛けてくる?
1.当初いわきで系統分断予定だったが…
2010年12月のE657系導入公式発表《プレスリリース》で、2012年春をめどに常磐線特急の運転系統をいわきで分割し上野~いわきをE657系で統一、いわき~仙台に従来型E653系で運転する特急を新設するとされていました。
ところが2011年3月の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で常磐線は壊滅的な被害を受け、特急列車の運行も暫定的に上野~いわき(2015年3月に一部列車が品川乗り入れ)に限られていましたが、2020年3月に最後の休止区間富岡~浪江が復旧し全線での営業再開が発表されています。
2.4両から10両に4往復から3往復に。首都圏寄りのダイヤに
同時に特急列車の運行再開も発表されましたが、当初の計画とは異なり品川・上野~仙台を直通する特急ひたち号3往復を設定することに。これにあわせ現行のE657系10両編成を2019年に追加投入しています。

特急ひたち号仙台発着便のスケジュール。仙台始発が遅く最終便も遅い。単純に仙台駅に着いたら折り返すわけでもなさそう。
2011年以前では上野~仙台は下り3本上り4本といわき→仙台に朝の下り1本が運転されており、651系で11両編成を途中いわきで分割し4両(繁忙期など一部は7両)のみが仙台まで乗り入れていました。さらに上野~原ノ町にも1往復運転されていました。
このように従来は福島県東部~仙台のローカル輸送の意味合いが強かったのが、2020年3月改正では首都圏発着の利用を前提としたスケジュールを組んでいます。近年長距離列車の運転が減る中では異例と言えます。
3.復旧断念する路線も多い中で常磐線が残った意味

都心部で出ている常磐線全線運転再開のポスター。
東日本大震災でのJR東日本の被災路線は気仙沼線や大船渡線が一部区間で鉄道事業廃止され、山田線も一部が三陸鉄道に移管、前年の土砂災害で不通が続いていた岩泉線も廃止されています。
常磐線は北部が東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で警戒区域となったため復旧工事はおろか現地調査すらままならない時期もあったものの、鉄道での復旧は進められ2020年3月に全線復旧を果たします。
一方で並行する常磐自動車道も富岡IC以北の未開通区間の工事が進み2015年には一足先に三郷JCT~亘理ICの全線が開業しています。一般に鉄道とりわけ特急列車のライバルとされる高速道路ですが、これが先に開業すれば長距離輸送の鉄道の優位性は大きくはないでしょう。
東日本大震災以外でも自然災害による鉄道廃止は2005年台風による高千穂鉄道、2015年高波による日高本線鵡川以南のようにいくつかの例があり、特に需要の少ないローカル線では莫大な復旧費用が採算に対して適切かという議論がつきまといます。
この点原発事故で避難=人口減少している常磐線はローカル需要は拾えずかなり厳しいはずです。
4.敬遠される長距離乗車そして「乗り換え」
そもそも在来線特急の長距離運用は減少傾向にあります。
- 通しで乗る需要が少ない
- 需要が多い区間が一部に限られる
- 長距離ゆえの定時性の確保の問題
- 長時間乗車に耐える快適性や設備の問題
ここ10年に限っても特急いなほ号の新潟~青森、特急しなの号の大阪~長野といった4時間を超える長距離運用は相次いで廃止され、北海道でも札幌から5時間を超える稚内や網走方面の特急の一部が旭川で系統分割される傾向にあります。今や品川~仙台4時間40分はトップクラスの長距離列車です。
また特急列車は区間に応じて特急料金や座席指定が必要なことから2列車を乗り継いでの購入はあまりないと思われます。新幹線+在来線は割引制度や券売機の機能もありそこそこあるでしょうが、在来線特急の場合通し計算ができるほうが例外的です。
特急同士の乗り換えも同一ホームでできる場合が多いものの10両編成から4両編成への「横方向」の移動があったり、自由席指定席の位置も乗車ドアの位置も統一されていないケースが多いです。また乗換駅での時間やトイレ売店の有無などの情報も前の列車からはほとんど供給されません。短距離通勤電車の比ではなく乗り換えは正直不便なのです。
5.新幹線、高速バスに次ぐ第三の選択肢に?
一般に300㎞程度の長距離移動では「高いけど速い新幹線」と「ゆっくりだけど安い高速バス」に二極化する傾向にあります。東京~長野・新潟あたりはバスも便数が多く早朝出発便や深夜到着便も豊富です。
これが東京~仙台だと新幹線が本数的に圧倒的有利です。高速バスはJRバス東北がバスタ新宿~仙台駅東口を1日4往復(ほかに夜行便や不定期便あり)で約5時間50分、運賃は時期により3700円~5700円の変動制です。
そもそも毎時4~5本ある新幹線より倍以上の時間がかかるのに料金は2000円安いだけと遠回りの常磐線は不利です。高速バスも同じJRが運営するものも季節別運賃を採用しており連休などを除けば特急ひたち号の半額以下です。正直これでは積極的な選択肢にはなりません。
特急料金は中央線系統と同じく駅の窓口や券売機で購入する事前料金とそれより260円高い車内料金がありますが、短距離ならまだしも長距離では差も小さくなります。
6.えきねっと割引がいよいよ本領発揮?
さすがにJRも特急ひたち号の復旧区間での乗車率を上げるべくえきねっとでの早期購入割引を導入するようです。(厳密には20日前の1時40分までですが)21日前までの購入で最大50%割引になるものが導入されるようです。
これは毎日発売ではありませんが定期的に東京~新函館北斗や東京~仙台(やまびこ号)などで見かけるもので、これを常磐線でも導入するようです。GWを除き7月までで最大50%割引となるようです。
【2020年7月16日追記】
2020年7月7日に発表されたJRグループ共同キャンペーン「旅に出よう!日本を楽しもう!」に関連してえきねっとお先にトクだ値スペシャル拡大が発表され、常磐線ひたち号品川~仙台も2020年8月20日~2021年3月31日を対象に設定されるようです。
参照:”新幹線半額”に踊らされないために。えきねっとお先にトクだ値で注意したい点まとめ。
7.JRE POINT特典チケットを仕掛けてくる?
これとは別に2019年秋に発表されたJRE POINTで新幹線や特急列車に乗車できるの特典チケットの導入が引っ掛かります。2021年春に予定されています。
参照:JRE POINTが遂に陸のマイルに。乗車でもポイントを貯めて特典乗車券でグランクラスに?
これは航空会社のマイレージのようにあらかじめ特典枠を用意しておいて、人気路線はそれを少なく、不人気路線はそれを多く設定することで需給バランスを調整する役目もあります。
JRE POINTはSuicaにチャージして事実上キャッシュバックするのが一般的な使い方なので、新幹線などSuicaエリア外で利用されにくい場所にも門戸を広げる意味合いもあるでしょう。
常磐線の場合
- Suicaエリアを跨ぐので使いにくい
- 所要時間で新幹線、価格面で高速バスが有利
- 東京~仙台の需要は年間を通じて一定数ある
- いわき以北の沿線ローカル需要はもう増えない
- 駅の無人化や窓口廃止が進んでいる
- 復旧させた以上継続的な乗車を維持したい
という特典枠にはうってつけの条件が揃っています。乗車券+特急券という距離制の仕組みではコスパも時短効果も悪い常磐線経由での利用は望めませんが、日常の通勤通学や買い物で貯めたJRE POINTでの景品としては悪くない選択肢です。